札幌地方裁判所 昭和46年(ワ)1066号 判決 1971年10月26日
原告 片岡琢也
右訴訟代理人弁護士 亀石岬
被告 北桜建設株式会社
右代表者代表取締役 金沢精
主文
一、本件支払命令に対する異議申立を却下する。
二、訴訟費用中本件異議申立によって生じた部分は訴外門脇龍五郎の負担とする。
事実及び理由
一 本件記録によれば次の事実が認められる。即ち、原告が昭和四六年七月二三日札幌簡易裁判所に対し「被告は原告に対し金七三万五七八八円及びこれに対する本件支払命令送達の翌日から支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。」との支払命令を求める申立(同庁昭和四六年(ロ)第三七三四七号)をしたところ、同裁判所は同年八月五日右申立を認容してその旨の支払命令を発したが、同庁裁判所書記官は右支払命令申立書自体において、すでに被告代表者代表取締役の氏名「門脇龍五郎」が「金沢精」と訂正され支払命令原本にもその旨表示されていたにもかかわらずこれを看過して被告を代表する権限のない門脇龍五郎を被告の代表者として同月八日到達の郵便により同人あてに右支払命令正本を送達した。そして門脇龍五郎は同月一一日被告の「代表取締役門脇龍五郎」名義をもって同庁に対し右支払命令に対する異議を申立てた結果、同庁裁判所書記官は原告の請求については前記支払命令申立時において当庁に訴提起があったものとみなされたとして同月一九日その一件記録を当庁に送付し、同日当庁において受理されるにいたったものである。
二、右事実によれば、被告に対する本件支払命令正本の送達自体がすでに不適法であるばかりでなく、この送達を前提とししかも被告を代表すべき権限のない門脇龍五郎によってなされた本件支払命令に対する異議申立もまた不適法たるをまぬかれず、したがって原告の請求については当庁に訴を提起したものとみなされるものではないことが明らかなのであるが、前記認定の一連の経過にかんがみれば本件がさながら当庁に係属するごとき外観を呈するにいたったのであり、このいわば形式上の訴訟係属を排除するためには民訴第四四一条の規定の趣旨に則り当裁判所もまたかかる不適法なる異議申立を却下しうるものと解するのが相当であるから、本件異議申立を却下し、右異議申立によって生じた訴訟費用は民訴九九条、九八条二項、五八条の各規定を類推適用して訴外門脇龍五郎に負担させることとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 原島克己)